医療M&Aコラム

病院・クリニックの事業譲渡~医療M&Aのポイントを徹底解説~

更新日:2026年3月27日

病院・クリニックの事業譲渡~医療M&Aのポイントを徹底解説~

病院・クリニックの事業譲渡とは?

事業譲渡の基礎知識

事業譲渡とは、会社や法人が行っている事業を、その事業に関わる資産や負債ごと別の企業や個人に引き継ぐ方法を指します。病院やクリニックの場合、建物や医療機器、患者リスト、スタッフの雇用契約など、運営に必要なさまざまな資産や負債をまとめて譲り渡すケースが一般的です。この手法は「事業売却」とも呼ばれ、事業の一部だけを対象にすることも、全体を対象にすることもできるため、状況に応じて柔軟に活用できます。特に医療法人では、資金調達や事業拡大の手段として注目されているスキームです。

株式譲渡との違いと医療法人の承継

事業譲渡とよく比較される手法に「株式譲渡」があります。株式譲渡は、株主が保有する株式を他者に売却することで会社の支配権を移す方法です(株式を売却して法人ごと引き渡す=法人譲渡)。
一方、医療法人には株式会社のような「株式」という仕組みがありません。ただし、旧制度の医療法人(持分あり医療法人)では、社員が「持分」を保有しており、この持分を譲渡することで法人の支配権を移すことが可能です。これは株式譲渡に近い概念です。

しかし、現在主流の「持分なし医療法人」では、社員に財産権がないため、株式譲渡や持分譲渡のように対価を受け取る形で法人を譲渡することはできません。

そのため、医療法人が実質的に病院・クリニックの運営を引き継ぎたい場合には、法人そのものではなく、事業(設備・患者・スタッフなど)を譲渡する「事業譲渡」という形をとることが一般的です。事業譲渡は譲渡対象を柔軟に選べるため、買い手が必要な資産や特定の事業部分だけを取得することも可能です。

医療法人特有のポイント

医療法人の事業譲渡には、一般企業とは異なる独自の注意点があります。まず、医療法人は営利を目的とできず、出資者への配当も禁止されているため、事業譲渡によって得た利益を自由に分配することができません。また、医療法人の設立や運営には都道府県知事の許認可が必要であり、事業譲渡を行う際にも、この許認可が求められる場合があります。さらに、事業譲渡を進めるには、理事会や社員総会といった意思決定機関での承認が不可欠であり、患者や従業員への丁寧な対応も重要です。こうした医療法人特有のルールを理解したうえで、慎重かつ計画的に進めることが成功の鍵となります。}

また、出資持分の有無で使用できるM&Aの方法が異なるのも医療法人の事業譲渡のポイントです。

医療法人の種類 出資持分 M&Aスキーム
持分あり医療法人 あり 出資持分譲渡・事業譲渡・合併
持分なし医療法人 なし 事業譲渡・合併

出資持分の有無によって、選べるM&Aスキームが異なることを押さえておきましょう。

事業譲渡を成功に導く手続きと準備

事業価値の評価方法

病院やクリニックが事業譲渡を円滑に進めるためには、まず事業価値を把握することが欠かせません。医療機関の場合、診療報酬の安定性、患者数の推移、地域での認知度、施設や医療設備の状態などが重要な評価ポイントになります。

さらに、過去の財務諸表やキャッシュフローを分析することで、経営の収益性や安定性を客観的に判断できます。また、同じ地域や同規模の医療法人の譲渡事例を参考にすることで、市場の相場感や需要・供給のバランスを踏まえた適切な評価が可能になります。
こうした多角的な視点で事業価値を把握することが、事業譲渡を成功に導く第一歩です。

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必要資料と情報整理

事業譲渡をスムーズに進めるためには、事前に必要な書類や情報をしっかり整えておくことが欠かせません。準備すべき主な資料には、法人の設立関連書類、直近数年分の財務諸表、診療報酬の請求データ、設備・資産の一覧、さらに患者数や診療科目に関するデータなどが含まれます。
加えて、譲渡対象となる事業の範囲や、承継する債権・債務を明確にしておくことで、買い手との協議がよりスムーズに進行します。こうした情報が不足していると、交渉や契約の段階で思わぬトラブルが生じる可能性があるため、丁寧な準備が重要です。

法的手続きの流れ

病院や医療法人が事業譲渡を行う場合、一般企業の事業譲渡とは異なる特有の法的手続きが必要になります。
まず、譲渡を進めるにあたっては、理事会や社員総会での承認を得ることが必須です。
さらに、医療法人の場合は都道府県知事の許認可が求められ、この手続きには一定の期間がかかる点を考慮しなければなりません。
また、譲渡対象となる事業に関連する債権・債務や契約をどのように承継するかについて、取引先や患者などの第三者へ通知・承認を得るプロセスも重要です。
これらの法的手続きを適切に進めることで、トラブルを未然に防ぎ、事業譲渡をスムーズに完了させることができます。

①理事会・社員総会で承認取得
・事業譲渡の実施を正式に決議する
②都道府県知事への許認可申請
・医療法人特有の手続き
・審査に一定期間が必要
③債権・債務・契約の承継整理
・どの契約を引き継ぐか明確化
・取引先との調整が必要
④第三者(取引先・患者)への通知
・契約内容によっては承認が必要
・信頼関係維持のため丁寧な説明が重要
⑤契約締結・事業譲渡の実行
・法的手続きを踏まえ正式に譲渡を完了

専門家の活用方法

医療分野での事業譲渡は、一般企業以上に専門的な知識が求められるため、適切な専門家のサポートを受けることが成功への大きな助けになります。特に、M&A仲介会社は事業価値の算定や買い手との交渉において重要な役割を担い、スムーズな取引を支えてくれます。
また、法務手続きや許認可に関する対応は複雑になりやすいため、弁護士や行政書士といった専門家の力が欠かせません。経験豊富な専門家と連携することで、リスクを抑えながら効率的に事業譲渡を進めることが可能になります。

事業譲渡の注意点

従業員や患者への配慮

病院やクリニックの事業譲渡では、従業員と患者への丁寧な対応が、譲渡を成功させるうえで非常に重要です。従業員に対しては、雇用契約がどのように引き継がれるのか、待遇がどの程度維持されるのかといった点を明確に伝える必要があります。急な変化は不安を招きやすいため、具体的な説明や今後の方針を共有し、安心感を持ってもらうことが大切です。

また、患者への配慮も欠かせません。医療機関は患者の健康と生活を支える存在であるため、事業譲渡後も診療体制が安定して継続されることを丁寧に説明する必要があります。治療の継続性やサービス品質に関する情報をしっかり伝えることで、患者の信頼を維持し、スムーズな移行につなげることができます。
従業員やその他のステークホルダーに事業譲渡の情報を伝える際は、タイミングを誤ると不安や混乱を招き、譲渡の進行に支障が出る恐れがあります。そのため、専門家と相談しながら、交渉がある程度まとまり方向性が固まった段階で共有することが望ましいと言えます。

規制・許認可の確認

医療法人や病院が事業譲渡を進める際には、業界特有の規制や許認可について正確に理解しておくことが欠かせません。医療法人の場合、事業譲渡には都道府県知事の認可に加え、理事会や社員総会での承認が必要となります。
さらに、診療報酬請求の仕組みや地域医療計画との整合性など、医療機関ならではの確認事項も多く存在します。これらの手続きを怠ると、譲渡が遅れるだけでなく、法令違反に該当する可能性もあるため注意が必要です。

そのため、法律や行政手続きに精通した専門家のサポートを受けながら、確実に手続きを進める体制を整えることが重要です。医療業界に特化したM&Aを行っている仲介会社であれば安心して任せられます。

契約内容とリスク管理

契約内容の確認は、事業譲渡を成功させるうえで最も重要なポイントのひとつです。契約書には、譲渡対象となる資産・負債、納入業者やリース契約などの取引先関係の承継方法、さらに非競合条項といった重要事項が明記されます。これらを明確に定めておくことで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

また、リスク管理の観点からは、契約締結前に実施するデューデリジェンス(詳細調査)が欠かせません。医療機関の場合、未回収の診療報酬や設備投資に伴う負債など、特有のリスクが存在します。こうした要素を事前に洗い出し、適切な対応策を検討しておくことで、買い手にとって譲渡後の経営リスクを最小限に抑えることが可能になります。

事業譲渡の成功事例と失敗例から学ぶ医療業界のM&A

医療M&Aでよく見られる成功パターン

病院や医療法人が事業譲渡を通じて成果を上げた例として、M&Aを活用した事業拡大があります。たとえば、大規模病院グループが地域の中小規模クリニックや病院を取り込み、医療サービスの提供体制をより効率的に整備したケースが代表的です。
成功のポイントは、譲渡先とのニーズが一致していること、そして地域医療の状況に合った戦略を描けるかどうかです。また、譲渡元・譲渡先の双方が専門家の支援を受けながらプロセスを進めることで、スムーズで確実なM&Aが実現します。
このように、適切な形で事業売却や譲渡を行うことは、法人全体の成長だけでなく、地域医療の質向上にも大きく貢献します。

医療分野のM&Aには他にも参考になる成功事例がいくつもあります。ここでは、実際に公表されている取り組みや、医療業界で一般的に見られる成功パターンをもとに、分かりやすく紹介します。

① 大手医療グループによる地域クリニックの承継

大手医療法人が地域の個人クリニックを承継し、診療体制を強化したケースです。

  • 医師の高齢化による後継者不在を解消
  • グループ内の医師派遣により診療時間を拡大
  • 電子カルテや設備投資をグループが支援し、サービス品質が向上

このような承継は、地域医療の維持にも大きく貢献します。

② 介護施設と医療機関の連携強化

医療法人が介護施設をM&Aで取得し、医療と介護の連携を強化した事例です。

  • 退院後の受け皿を確保し、患者の流れが安定
  • 医療・介護の一体運営で経営効率が向上
  • 地域包括ケアシステムに適した体制を構築

高齢化が進む地域では特に効果が大きいモデルです。

③ 地域病院同士の統合による経営改善

複数の自治体病院が統合し、経営改善と医療体制の維持を図ったケースもあります。

  • 公立病院の広域連携・統合
  • 診療科の集約や医師の配置最適化が可能になり、医療の質と経営の安定性が向上

(※具体的な自治体名は複数存在するため、一般的な事例として紹介しています)

④ 医療法人が専門クリニックを買収し診療領域を拡大

総合病院が皮膚科・眼科・整形外科などの専門クリニックを承継し、外来部門を強化したケースです。

  • 専門外来の強化により患者層が拡大
  • 病院本体の紹介患者が増加
  • 診療の幅が広がり、地域での競争力が向上

専門クリニック側も、設備投資や人材確保の負担が軽減されるメリットがあります。

このように医療分野のM&Aは、

  • 後継者問題の解決
  • 経営基盤の強化
  • 地域医療の維持・拡大

といった目的で活用され、成功事例も多く存在します。

それだけに、M&Aは法人にとって大きな転換点となるため、「絶対に失敗したくない」と考えるのは当然のことです。そこで次に、M&Aを失敗させないために押さえておきたい重要なポイントをご紹介します。

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医療M&Aで失敗しないための3つの注意点

① 準備不足によるトラブル

成功事例がある一方で、医療M&Aがうまくいかないケースも少なくありません。その多くは、事前準備の不足や情報整理の甘さが原因です。
たとえば、事業価値を正しく評価しないまま交渉に入った結果、売却価格で折り合いがつかず破談になったケースがあります。また、規制や許認可の確認が不十分なまま譲渡を進め、後から行政指導を受ける例も見られます。
こうした失敗を防ぐには、

  • 事業価値の適切な算定
  • 必要資料・情報の整理
  • 専門家の早期関与

といった準備を早い段階から進めることが重要です。潜在的なリスクを事前に把握することが、成功への大きな一歩になります。

② 地域特性を考慮した戦略

医療機関の事業譲渡では、地域特性を理解した戦略設計が成功を左右します。
都市部のように競合が多い地域では、差別化や連携の方向性が重要になります。一方、医療資源が限られる地方では、ネットワーク化や地域医療の底上げにつながる取り組みが効果的です。地域の医療環境や患者層を深く理解し、それに合った施策を打ち出すことが、スムーズな譲渡とその後の成果に直結します。

③ 専門家のサポートを活用すること

医療M&Aは、一般企業のM&Aよりも規制・許認可が複雑で、専門的な知識が求められます。そのため、以下のような専門家の協力が不可欠です。

  • M&A仲介会社:価値算定、買い手との交渉支援
  • 弁護士:契約書の確認、法務リスクのチェック
  • 行政書士:許認可手続きのサポート

適切な専門家と連携することで、手続きの抜け漏れやトラブルを防ぎ、安心して譲渡を進めることができます。

今後の動向と次のステップ

医療業界のM&Aはさらに拡大へ

医療業界におけるM&Aは、今後ますます拡大していくと考えられます。背景には、医師の高齢化や後継者不足、医療制度の変化、設備投資の負担増など、個人クリニックや中小規模医療法人が抱える課題の深刻化があります。

こうした状況の中で、安定した経営基盤を求めて大手医療グループに参画(グループイン)するクリニックが増えていくことが予想されます。グループに入ることで、医師の確保、設備投資の支援、経営ノウハウの共有など、多くのメリットを享受できるためです。

一方で、大手医療法人側も、地域医療の強化や診療領域の拡大を目的に、中小規模の医療機関との連携を積極的に進めています。こうした双方のニーズが合致することで、医療M&A市場は今後も活発化していくでしょう。

このような流れを踏まえると、医療機関が今後の選択肢を検討する際には、

  • 自院の強みや課題を客観的に把握する
  • 地域医療のニーズを理解する
  • 将来の経営方針を明確にする

といったステップが重要になります。

医療M&Aは、単なる「売却」ではなく、地域医療を守り、より良い医療提供体制を築くための選択肢のひとつとして、今後ますます存在感を高めていくはずです。

将来のM&Aに備えて、今からできること

医療業界のM&Aは今後さらに活発になることが予想されます。だからこそ、「いつか必要になるかもしれない」と感じている段階から動き始めることが大切です。事業譲渡やグループインは、急に決断できるものではありません。事前の情報収集や専門家への相談を進めておくことで、いざという時に慌てず、最適な選択ができるようになります。
将来の選択肢を広げるためにも、早めに準備を始め、いつでも動ける体制を整えておくことが、医療機関にとって大きな安心につながります。

最後までお読みいただきありがとうございます。
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